数ヶ月に一回、カメラマンのKさんには
メールを入れるようにしていた。

カメラマンのKさんは
ムービーでもスチールでも撮れる人で
僕の番組の小さな仕事をよくお願いしていた。

数年前にKさんは自律神経をやられ、
また同時にとある災難に見舞われ
寝たきりになってしまった。
一時は復調し、我が家に遊びに来て
カンタローを抱いてくれたりしたのだけど、
その後、また調子が悪くなり、
まともに喋ることができなくなった。

それでも僕はちょくちょくカンタローの写真を送った。
「だいぶ大きくなりましたよ。
また遊びに来てください」
「もうパパって言えるようになりました」
と。
3回に一度くらいのペースで返事が届く。
指先もやられているようで
なかなかうまくiPhoneを操作できないのだそうだ。

ここ数回、返信がなかったので
僕の方から電話を入れてみた。

すると、しばらくしてコールバックがあった。
「原さん、すいません、お返事できなくって!」
「もう、なんや、Kさん、喋りも全然普通に戻ってるじゃないですか。
心配しましたよ!
去年はちょっとろれつが怪しかったですもんねー」
「いやいや、ありがとうございます。
ただ喋るのはよくなったんですけど、
僕、完全に失明しちゃいました」

絶句した。
「もう視神経のほうが完全にダメになったみたいで」
かける言葉もない。
「……そんなことになってたんですか」
それがやっとだ。
頭が混乱していた。
そんな中で僕は努めて明るい態度で話すという態度を選んだ。
「これからマッサージのお勉強でもするんですか?」
「いえ、これまでの体験を本にしようと思います。
音声認識ソフトがあるのでなんとか書けるかなと思いまして」
「わー、さすがKさん!
タフですねー」
どっかで聞いたようなセリフだ。

本当に優しい人は
困った人を前にした時
必ず自前の言葉をかけてやれるものだ。
僕は言葉を持っていなかった。

「Kさん、久々に会いましょうよ」
「僕も原さんに会いたいです」
Kさんは歳上なのにいつも僕には敬語だ。

「寝たきりで目も見えないし、体も動けないし
喋ることもできなかったんです。
死のうと思ったこともあります。
ここ2年くらい、ほとんど記憶がないんです。
つらすぎて」
「……」
「でも原さんのメールを妻が読んでくれたのはなんとなく覚えてます。
僕、泣いてたと思うんですよ」
「ありがとうございます」
「いまは色んな人に感謝してます」
「本を書くのもいいですけど、
マッサージの勉強でもされたらどうですか?」
「いや、僕、変態なんで、絶対女の人触りまくって逮捕されると思います(笑)」
「わはは、バカですねー」
と言って電話を切った。
いまは歩行訓練が大変らしく、
12月半ばにそれが一区切りつくらしいので
その後に会う約束をした。

僕は第一声、Kさんにどんな言葉をかけられるのだろう。

優しさとはなにか。
うまくは言えないけど、僕がぱっと頭に浮かんだのはこの曲だった。
きっとこれは優しい歌だ。


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