ボクの仕事仲間で、自転車の先生でもあるKさんが
今日、我が家にやってきた。

Kさんは一年半前、わけあって身体を壊した。
それまで頻繁に連絡を取り合っていたのに
いくら電話しても繋がらないなと思ったら
ろくに電話も取れない状態になっていたらしい。

まともに電話にも出られない。
歩くこともままならない。
それどころか視力すら大幅に低下して
モノが認識できなくなっていたそうだ。

身体を壊してから半年、
つまり今から一年前、やっとKさんからコールバックがあった。
正直、滑舌も相当怪しい。
それは紛れもなくKさんの声だった。
ちょっとうるっときた。

なんとか電話には出られるようになったものの、
Kさんにとって電話一つが大変な苦労のようで
ボクはまたそれから数ヶ月空けて電話を入れた。
だんだんKさんも調子を取り戻してきたようで
電話の間隔はどんどん短くなり
それに反して通話時間は長くなっていった。

ボクはずいぶん前から
「Kさん、もう大丈夫でしょう。
久々に会いましょう」
と言っていたのだけど、
Kさんはなかなかうんと言ってくれない。
自分が万全でない姿を見せたくないという
江戸っ子気質のKさんらしい態度だ。

Kさんのなかでなんとかオッケーが出せたのだろう。
今日、目黒の自宅からやってきたのだ。
ボクは五本木のバス停でKさんと待ち合わせた。
一年半ぶりに再開して
ボクらは道端で抱き合って喜んだ。

「Kさん、なんか全然変わらないですねぇ。
なんか足引きずって、どひゃーみたいな感じになってるかと思ったら
えらい拍子抜けですよ」
とボクは軽口を叩いた。
もちろん、Kさんの回復を祝っての言葉だ。
実際、Kさんは若干細かい作業が苦手で
お箸などは握れないらしいが
その他はとても大病を患っていたとは思えない様子だった。

13時過ぎに来て、うちのベイベちゃんの笑顔に感激しまくった後、
20時過ぎまでずーっと一人でしゃべっていた。
Kさんは強力なおしゃべり好きなのだ。
ただでさえ波乱万丈な人生で、
ボクはことあるごとに自伝を書き始めることを勧めているのだけど、
この1年半の生活は
その自伝のページ数を大幅に増やしたことだろう。
とにかくドラマチックすぎる。

うちの奥さんはとても聞き上手なので
Kさんも調子づいたのか、
「最近、こんなに楽しかったことはないです」
と言って我が家をあとにした。

Kさんは病床に臥せっている時にも
ボクがずっと連絡していたことを
大変に感謝してくれていた。
「それがどれだけ心の支えになったか。
お医者さんにもそう言われました」
なんて言ってくれたけど、
Kさんはボクにとっての自転車の先生なので
色々教えてもらわなければ困る。
それに、Kさんは非常に頭のおかしい人で
ボクは定期的に観測しなければいけないのだ。

ま、ここまで書くと
ボクの美談がまたひとつ増えてしまうのだけど
それだけでは終わらせない。

そんなKさんはボクの結婚祝いだと言って、
実に2年も前に自作の自転車をプレゼントしてくれることになっていたのだけど、
件の理由で延期に次ぐ延期でここまで来た。
「もうイヤや!
Kさんの病気なんて知らんがな。
ええ加減早く乗りたい!」
と非情にも病み上がりの人間に鞭打って、
8月20日に無理やり納品してもらうことになった。

「Kさんも最後のリハビリやと思ってさ!」
Kさんも奮い立ってきたようだ。

世界で一台のボクの自転車。
Kさん渾身の作品に出会えるまで
あと3週間だ。
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